「一の谷合戦」人形と芝居
    「一の谷合戦」の芝居の内容は 人形は頭以外地元の素人が作った物である 
    と同じく 浄瑠璃も地元の人?の創作と思われる。
    登場人物の名、時代背景からみると「熊谷陣屋」で知られる 一谷嫩軍記(いちのたにふたばぐんき)
    から引用、作り替えられたものと思われる。(知立からくり保存会発行 知立のからくりより)

   演じる外題は「一の谷合戦」  あらすじへ   台本(床本)へ
                
                 平山が岡部にやりで刺され山車の高い所から振り落とされる。

  出演する人形たち
                      
    熊谷次郎直実   熊谷小次郎直家   岡部六弥太忠澄   平山武者所秀重
        43歳          16歳        26歳        32歳

  一の谷合戦 見所場面
 
小次郎扇の的を射る
 
小次郎岩渡り

小次郎桜渡り
 
熊谷直実我が子を抱きかかえる

    平山 岡部に芋ざしにされる




 




                                                                                          
  
高砂に変身は見てのお楽しみに

  芝居からくり人形
      延享4年(1747)劇を構成して芝居からくりとしての記録あり。

  地元の住民が作ったもの 
      天明2年〜8年(1781〜’88) の記録に、常に新しい試みがなされ、進歩して
      きたと思われる記録あり。弘化3年(1846)の記録に、唐繰師(唐羅繰師)が年寄り
      と称される年配者が考案したものが多い。
       若いときは操り人形に血道を上げ、若衆連を抜ける年配になると仲老といわれ、
      からくりの方に回って新奇な発案でさまざまのからくりを考案した。
       本祭のすんだ翌日から二人の仲老組のものが、2年先の新しいからくりの製作に
      かかり、作業中は家族といえども仲間以外は入れず、祭礼当日上演発表して大成功
      をおさめたとあり。

  知立からくり人形の特徴
       知立のからくり人形は、他地方のからくりのような人形師が作ったものでなく、衣装も
      地元で仕立てられたもので華麗なものではない。最大の特徴は、頭以外は浄瑠璃に
      よる演出と庶民の手で作られた民俗芸能ということである。
      浄瑠璃による演出は全国に二、三あるのみ。

 芝居の題名「一の谷の合戦」あらすじ
      平家は木曽義仲に追われ、北九州まで落ち延びたが寿永3年(1184)の春
      再起して東上、北は断崖絶壁、南は海に面した天然の要塞、一の谷(兵庫県)に
      堀を作り、乱杭逆茂木をならべ野陣を作って立てこもった。
       源頼朝は、後白河院の宣詞を賜り、弟の義経は北の断崖ひよどり越えから攻撃
      することになった。時に、熊谷次郎直実は43歳、熊谷小次郎直家は16歳、平山武
      者所秀重は32歳、岡部六弥太忠澄は26歳だったと伝えられている。
       熊谷次郎直実は我が子小次郎を呼んで先陣の手柄を立てようとし、闇にまぎれて
      出陣した。
       陣門まで来た小次郎は耳を澄まして陣中のようすをうかがった。
       平家の陣屋からは、かすかに笛の音が聞こえてくる。舞楽でも舞っているのだろう。
      都にいた人達の心はやさしく、戦場でも詩歌管弦の宴を催している。そのゆかしい
      平家の人達に私達東国の武骨者は敵として戦わねばならぬと思わず感慨にふける。
       初陣の小次郎にそんなことがあってはと心配して後を追ってきた父直実は、
      大音声を張り上げて「汝は源氏の旗頭、熊谷次郎の一子小次郎なり、敵前での躊躇
      ひきょうひきょう」と大喝した。
       小次郎は八ッと心を取り直し、敵の赤旗のその中にひときわ目立つ扇の的に、
      要を射通した。扇は木の葉が散るようにヒラヒラと風に舞った。
       平山の武者所は源氏の禄を受けていながら、むほんの心を起こして物陰に潜ん
      でいた。そこへ小次郎が小桜おどしの鎧に星かぶと姿で来たので平山は驚き、
      そんな姿で夜襲が出来るものかと小次郎をあざ笑った。
       若い小次郎は、先陣なりと呼ぶとともに鎧かぶとを脱ぎ捨て、難所の岩石も飛石の
      ように飛び越え、乱杭逆茂木もものかわ、桜の古木によじ登って陣内深く切り込んだ。
       ついてきていた父直実は、小次郎の身を案じ敵陣に切り込んで多勢に無勢で負傷した
      小次郎を救い出した。平山のむほんを知った岡部六弥太が槍を引っさげ、駆け付け
      て激しい戦いが始まった。
       熊谷直実も引き返して岡部に加勢して平山秀重を芋ざしにして投げ捨て、悪人滅ん
      で国も栄え、熊谷が高砂の尉、岡部が高砂の姥にはやがわりしてめでたしめでたしで             
 
  

     
「一の谷合戦」台本(床本) 
             一の谷合戦床本(所在不明)  

     (緑色の字は現在カットされている)   

             そもそも寿栄の三つの春ここに 平家の一族ども 一の谷に野陣を構え勇猛
             天に坂のぼり戦国のよぞかまびすし院宣なこうむりて 九郎判官義経公 おごる平家を
             打ち亡ぼし再び栄えん白旗の風になびきてかえさんと ひるがえしたる有様はすさまじ
             かりける次第なり 頃は弥生の初めつ方 人なき折をうかがいて 
             熊谷の小次郎な 十六才の初陣に着たるよろいは小桜おどし 猪首に着なす星兜
             星の光にただ一騎 心は剛の武者 わらじ 足にまかせて逸りおの山道岩角きらいなく 
             一の谷の西の木戸陣門近く来たりける

             
はるかあとよりかちたちの武者は名に負う熊谷は我が子の先陣足も空 案じかねてぞ
             坂のぼり 敵の陣所に程近し こなたの山にとうかがいいる 
             小次郎な思わずも管弦の音を聞き取りて

熊谷小次郎
     
「かかる乱れの世の中に 弓矢さけびの音もなく 糸竹の曲を調べ詩歌管弦な もよおさる
     床しさよ いかなれば我々は 弓矢の家に生まれ出でよろい兜弓矢を取り 
     かくやんごとなき人々を 敵として立ち向かい 修羅の剣を研ぐことは あさましやなぁ」


           
浅ましさよとばかりにて 思わず絞る袖袂 まだうらわかき小次郎が 身の程々を汲み
             分けて感ずる心ぞしおらしき かかる嘆きの折こそあれ 後の山より熊谷が 天地に響く
             大音声

熊谷次郎直実 
     
「やあやあせがれ 進む者は退きやすしという詞を忘れしか 武蔵の国の住人 志の党の
     旗頭 熊谷の次郎直実の汝は一子にあらざるや 敵をみかけて ゆうよのありさま
     卑怯至極」


           とありければ はっとばかりに小次郎な 父の勇みに気も張り弓心の矢竹 引締めて
              よっぴきひょうと放つ矢は 初陣なるぞ出で合えと 言わぬとばかりの知らせかと
             思いがけなき小腕の手練 扇を的にいとおすかなめ
              これはとばかり熊谷も あきれ果てたるばかりなり
             かくとやいざや知らず尚 踏み立ち来たる平山が 見ゆる向こうの人影ンナ敵か味方か
     いぶかしく 何者なるぞと声をかけ それと見るより

平山秀重
        
    
 「やあやあ小次郎 われより先に来るものは世もあるまじと思いしに心がけは神妙
     ながらすはだ武者にて切入るとは のがれ勝手の良いように みな落武者の尖兵か」

           と あざける詞に
             「やあやあ平山 小兵ながらも某が 敵を恐れぬ身のそなえ 高名手柄の 血祭りに
             いざや手並みをみせん」
             
ずと けあぐる岩石ほどよくも いならぶ手練の飛石づたい
             やすく難所をたどりしはめざましかりける 
             次第なり
             血気にはやる小次郎は 先陣なりと呼ばわりしが 出合う者もあらざれば  幸い
             ありおう桜の古木 踊り 上がり飛び上がり 乱杭逆茂木 越えたる所へ うかがい
             いたる熊谷が 子を失いし獅子の勢い敵の陣所へかけ入ったり
              門内にわかにさわぎ立ち のがさぬやらぬの声のうち 我が子を小脇にひんだかえ
             ずっとかけ出でて 
熊谷直実                
    
「平山どのおわするか せがれ小次郎手負いしゆえ 養生加えに陣所へ送らん」
          
     
お手柄あれと言い捨てて矢を付く如く かけり行く
     平山案に相違してンネ 油断ならじと身構えし かけ行く向こうへ槍引っさげ岡部の
           六弥太踊り出で


岡部六弥太 
    
 「やあ平山の武者所 源氏の禄を戴きながら君を害せん謀 明白に現われしと
    大将より承り 召し捕り役に向かいたり 異議に及ぶと裏腹に 風間をあけん覚悟せよ」

   
 と 呼ばわったり
    平山動ぜず打ち笑い ムゝ ハゝ ムハハハハ 年来しこみし我が大望 槍先ぐらいに
    恐れぬゆえ 願う所と無二無三 切ってかかるを後より はせ来る熊谷 のがさじと
    おめいてかかるを 真向かざし 鋭き刃に電光石火 火花を散らして戦いける

             右方左方に切りたてられ さしもの平山たまりかね 逃げ行く所を六弥太が 槍の穂先に
             いもざし料理  あんばいよしと熊谷も 一度に上がるときの声 海山にひびく有様は
             心地よくこそ見えにけり

             もはや相手も荒波に 悪人滅びて国ゆたか 源氏の勢い高砂の 尾の上の松も
             年古りて君の恵みも千代よろず 万世とこそ祝いける。
                                                     幕。

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